大阪高等裁判所 昭和39年(ネ)1050号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔争点〕控訴人大阪府がその所有の商業地を一般に賃貸する際、昭和三三年度からは右土地の固定資産評価推定額の一〇〇分の四をもつて地代年額とし、ただしその額が従来の賃料に比し二倍以上となる場合には、二倍の額とする取扱いであつた。そして昭和三三年度から三五年度までの右推定額は坪当り四万五、〇〇〇円であり、その一〇〇分の四は一、八〇〇円となるが、右ただし書の適用により、昭和三五年四月一日から坪一、八〇〇円と定められた。ところが大阪府は昭和三六年度から右推定額の一、五倍の一〇〇分の四をもつて地代年額とすることに改め、これによつて算出した額まで増額請求した。一方右推定額も昭和三六年度からは坪五万九、四〇〇円である。
そこで右地代増額が認められるか、それとも右推定額の値上り分に相当する増額だけしか許されないか、が争われた。
〔判決理由〕大阪市内宅地価格の推移指数は、本件土地のような商業地において昭和三五年四月の二一一、七七に対し、同三六年四月は三五五、三三となり一、六七倍に達していること、本件土地の固定資産評価推定額は、昭和三五年度坪当り四万五、〇〇〇円に対し同三六年度は五万九、四〇〇円で一、三二倍に達していること、以上のとおり認めることができる。そうすると本件土地については、旧地代坪一、八〇〇円が定められた以後、土地価格の昂騰があり、右経済事情の変動により既定の地代は不相当になつたものといわなければならない。
そこで控訴人の請求した増額が相当であるかどうかについて考察するに、控訴人は、固定資産評価推定額の一、五倍に対する一〇〇分の四をもつて地代年額とし、昭和三六年度の右推定額は坪当り五万九、四〇〇円であるから地代は三、五六四円になるというのである。ところで一般に土地の賃料を算出するに当つては、土地価格を投下資本とし、地代をその利潤とみる考え方に基づき、土地価格に利潤率を乗じ、更に公租公課および管理費用を加えた額をもつてその基準額とするのが本則である。従来賃貸中の土地の場合には、右にいう土地価格は更地価格ではなく、これから借地権価格を控除したいわゆる底地価格となるべきものであることはいうまでもない。そして当事者間に友好関係があるとか、借地人が草分けであるとか、貸地人が多額の敷金等を受領しているとかの特殊事情があれば、これを参酌して右基準額を調整し、適正地代額を算出すべきものである。
これを本件についてみるに、<証拠>によると、昭和三六年四月一日現在における本件土地の更地価格は別紙目録記載一ないし六の土地は坪二五万円、同七ないし一二の土地は坪二〇万円であつたと認めることができる。<証拠>によると、昭和三六年三月三一日に本件土地の隣接地五五坪六二を、控訴人は坪三〇万円で売却していることを認めることができるが、右土地は隣接地といつてもいわゆる角地であり、本件土地とは若干条件が異なるので、本件土地を三〇万円と評価することはできない。そして本件土地について底地価格を更地価格の何割とみるかということについては、必ずしも的確な証拠はないが、控訴人はこれを固定資産評価推定額五万九、四〇〇円の一、五倍に当る八万九、一〇〇円とみたというのであるから、一ないし六の土地についていえば更地価格の一〇〇分の三六であり、七ないし一二の土地についていえば一〇〇分の四五である。そうすると右数字は原審証人佃順太郎の証言によつても、本件土地の底地価格として控え目のものであるということができる。
つぎに適正利潤の率についても、一般的には一〇〇分の五、一〇〇分の六等いろいろの考え方があるが、控訴人はさらにこれを下廻る一〇〇分の四とするのであつて、これまた被控訴人らに極めて有利な率であるといわなければならない。しかも固定資産税額も管理費用額も加算しないというのであるから、控訴人主張の方法により算出された三六年度賃料は、適正賃料額の範囲内であるということができる。
被控訴人らは本件増額請求について、特に被控訴人らに不公平であると主張するようであるが、これを認めるに足る証拠はない。また、本件土地賃貸借の沿革を縷々主張するが、仮にそのような事実があつたとしても本件土地の賃料を特に他の府有地より低額にしなければならないものとは認められない。更に<証拠>によると、昭和三七年度においても、近隣民有地のうち江成町八〇番地には坪七九六円、同一七番地には坪一、〇〇〇円、同六一番地には坪一九五〇円の賃料で賃貸している事例があることを認めることができる。しかし<証拠>によれば、右各土地はいずれも本件土地とはかなり離れている上に条件も異なり、昭和三七年度固定資産評価額も本件土地の三分の一以下のものもあり、せいぜい二分の一強にすぎないことが認められる。したがつて右のような事例があるからといつて本件増額請求が許されないということはできない。
もつとも地代額の算定については、旧地代の額にその後における土地価格等の上昇率を乗じたものをもつて新地代の額とすべきものであり、原則としてこれを超えることができないといういわゆるスライド方式なる見解が存する。原判決の考え方もほぼこれに近いものということができるであろう。しかしながら当裁判所は、借地法一二条によつて増額することのできる地代額は、右の額に止まらないものと解することは前述のとおりである。けだし取引きの実際においては、適正地代額がそのまま現実の地代額として決定されるとは限らないのであつて、当事者間の力関係、かけひきその他種々の事情により、適正地代額より高くあるいは低く定められるのが常である。殊に適正地代額そのものが、裁判所の判断があるまで当事者間において必ずしも明確でないので、適正地代額と現実の地代額の差はかなり大きい場合もあることを否定することができない。そして現実の地代額と適正地代額との間に存するこのような差は、当事者の双方がその存続を希望する場合以外の場合においては、その後における地代改訂に際し、これを維持すべき理由は乏しいのであつて、改めて前記方式により適正賃料額を算定するを至当と解するからである。(平峯隆 中島一郎 阪井昱朗)